先のブログで書きましたが、マズローの欲求段階説は、本来5段階です。実は5段目の続く、6段階目があるのです。左にある、「自己超越」という段階です。 晩年のマズローは、5段階の欲求階層の上に、個人の利益を超えて同胞や社会のために貢献したいという思いを6段目に置きました。自分だけの利益を求めるのではなく、純粋に国やコミュニティの為に何らかの目的を達成しようという欲求です。マザーテレサが貧困や病気に苦しむ人達の救済活動に生涯を捧げたような、見返りのない慈善的な欲求がこの自己超越欲求にあたります。 日本人では、たとえば外交官の杉原千畝氏が第二次世界大戦下でナチスドイツの迫害に苦しむ約6,000人のユダヤ人難民を救った人道的博愛精神が、この6段階の精神状態と考えられます。国境、宗教、戦争の敵味方を超えた杉原氏の偉業にたいし、後年になってヤド・バシェム賞(「諸国民の中の正義の人賞」)が贈られました。 国際関係上の事情からノーベル平和賞にいたりませんでしたが、ノーベル平和賞の本来的姿は、個人の利益を超えて広く社会のために尽くした人に贈られます。賞の対象となる「国際平和」「人権擁護」「保健衛生」「慈善事業」「環境保全」「非暴力的手法による民主化や民族独立運動」などの人類全体の幸福に貢献する活動が最も尊いという認識は、マズローの学説の発表を待つまでもないことです。 思い返せば、ユーサイキア研究所でも、ブレスワークやボディワークの普及活動によって、いつのまにか社会全体の利益を求める活動に誘われていきました。自然の流れにのっていくと、マズローが描いたピラミッドを一段一段踏みしめてのぼっていく方向へと進んでしまいました。 シックハウス問題の提唱や、健康住宅を呼びかけた経験を、欲求階層にあてはめれば、「生理的欲求」や「安全欲求」という健康的生活を守る基本を改善するためでもあり、自分自身の健康はもちろん、同時代を生きる人たちの健康を守っていくため(第3段の社会的欲求、帰属欲求)でもあります。結果として建築業界の売上げ増大にも貢献しましたが、より良く住む人の健康を守る住宅造りによって利益を得るのは、企業のあるべき姿と思われます。 さて、20世紀後半当時の社会を調査したマズローは、この段階に達しているのは全人口の2%ほどと述べています。多くのビジネスはボリュームゾーンを狙って利益を出すことが大前提であるため、これまでは第6段階層の人びとをターゲットにすることは考えられませんでした。 しかし、これからは違います。生まれたときからピラミッド階層のすべてが満たされている、新しいジェネレーションが台頭してきました。彼らは物質的な価値よりも精神的な価値を求める層でもあります。高級車、マンション、高級時計…などの所有欲よりも、というより、生まれた時からこうした物質的な豊かさに恵まれているため、心の豊かさや精神的な幸福に価値を置きます。 精神的な心の豊かさも満たした、ピラミッドの5層全部が満たされた彼らが成長して社会の担い手となってきた今、自然に第6層の欲求を満たす行動へ赴くことになります。 休日を利用して災害被災地へボランティア作業に赴く企業人、恵まれない環境の子どもたちのために活動する大学生、孤児院や養護施設にタイガーマスク寄付を投げ込む匿名の誰か、直接的な見返りのためでなく、コミュニティのためという大きな目的で貢献しようという層が確実に育ってきています。こうした人たちの数を加算していくと、人口の2パーセントにとどまってはないでしょう。身近なマザーテレサ活動にいそしむ人は、今後さらに増えていくと予想されます。 たとえば、ips細胞の研究でノーベル賞を受賞した山中京大教授のように、個人の利益を超えて人類や同胞のために貢献できる何かの課題や使命をもって目的を達成しようという人びとが確実に増えているのです。 21世紀を生きる私たちは、マズローがつけ加えた第6段階目の精神をもって仕事や学業にいそしむ人たちを応援することを仕事にしていきたいと思います。
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マインドフルネスのルーツ 近年注目されているマインドフルネスは、自分の身体や気持ちの状態に気づくための「こころのエクササイズ」です。微生物学者ジョン・カバット・ジン博士(写真右)が、仏教の禅瞑想をもとに提唱した手法として、ストレス対処法の1つとして医療や教育現場で実践されています。 ジン博士が禅瞑想に出会った1960年代のアメリカでは、人間性回復運動、すなわちヒューマンポテンシャル・ムーブメントのトレンドにのって、東洋から禅やヨガ、太極拳などが次々上陸していました。仏教の瞑想に出会ったジン博士はその効果を計測、数値化して、マインドフルネスとして装いを新たに紹介しました。 創生期のブレスワーク 同じころ、西海岸では、ブレスワークが広がっていました。アメリカに伝えられた東洋の精神的な伝統技法に西洋心理学を融合させたブレスワークは、ヨガ、太極拳、アーキパンクチャ(鍼灸)とともに、自然に生命力を高めてウェル・ビーイング(健康)を実現する心と身体のエクササイズとして広く浸透していたのです。 とくにブレスワークは、深い呼吸によってアクティブな瞑想体験が得られ、心身の健康にめざましい好影響をもたらしました。 実のところ、創生期のブレスワークは、現在のようなまとまったひとつの分野ではなく、“リバーシング”、“ブリージング”、“バイオエネジェティックス”などの各技法の名称でそれぞれ呼ばれていました。着眼点や技法の違いによってさまざまな名称が混在しましたが、“呼吸”という共通項で淘汰されていき、1990年代はじめ頃におおよそ“ブレスワーク”に統一されました。 インタグレーション・ブレスワークは、インドのヨガ、日本の神道と禅の技法に、フロイト派およびユング派心理学、人間性心理学の理論が融合した、ナチュラルでハートフルなセラピーとして開発されました。 瞑想の気づきとマインドフルネス状態をさらに高める驚異的効果と、潜在能力の開発、人間的成熟に大きな可能性を秘めているため、ブレスワークは指導者の育成に時間がかかります。しかし、フロイド派精神医学者S.ロフ博士がアカデミックフィールドにブレスワークのトレーニングを開始し、そこにテキサス州の依存症カウンセリングの専門家養成に携わっていたジャクリーン・スモールが協力して、大学および大学院レベルの教育プログラムが整備されました。ヨーロッパ各国、ロシアなど中欧諸国、南北アメリカなど世界各国からプログラム受講者が訪れ、現在はアメリカを中心に世界各地でブレスワーク・プラクティショナーが活躍しています。 マズローの欲求五段階説 は、衣・食・住の確保など「生理的欲求」を底辺に、2段目に病気や雇用などのリスクや危険から身を守る「安全の欲求」が積み重ねられます。さらに、集団に属し家族や仲間などの愛情で満たされたいという3段目、「所属と愛の欲求(親和欲求)」へ続きます。4段目に自尊心に目覚め周囲から尊敬されたい「承認の欲求」が、5段目は自己の存在意義を実現させる「自己実現の欲求」が頂点を飾ります。人間の本能的欲求をざっくり整理してピラミッドモデルにしたことで、現在もビジネスや人材教育などの分野において世界中で活用されています。 物質的文明で生じた、満たされない部分 さてここで、このピラミッドが、当研究所で実施するワークどのように関わるか紹介しましょう。 【生理的欲求】 生理的欲求は、食欲や睡眠欲など、人が生命活動を営むうえで必要不可欠です。最も本能的で、生理活動や遺伝子レベルにまで関係します。 科学技術が発達して物質的に恵まれた現代、下層の欲求は100%満たされているはずです。ところが現実は、科学技術が発達した文明社会であるがゆえに、基本的欲求が脅かされる事態が起きています。つまり、現代人の生命活動、健康、安全は、環境汚染や地域紛争、エネルギー問題などに脅かされています。とくに日本では、環境汚染による食・住・睡眠・妊娠・出産に与える影響が重大です。 【安全欲求】 生理的欲求がある程度満たされると、次に、雨風をしのぐ家や、心身の健康など安全・安心な生活を求める思いが頭をもたげるとされています。この欲求は、病気や事故に脅かされず、安全で快適な場所に住み、心身ともに安全(健康)でいたいという思いです。 ユーサイキアのワークは、身体と心の癒しのメソッドです。より良く大きく成長し、人生の成功を支える盤石な土台をつくります。生理的欲求と安全欲求において、本人が気づかないでいる満たされない部分を自覚に導き、自己発見を通じて自然なプロセスでその欠けを補います。この部分は、ピラミッド全体を支える土台部分であるだけに、堅実堅牢に築いておきたいものです。 つながりと共感。モチベーションの向上。創造性と実行力。 【愛と帰属の欲求】 太古の昔から人は群れを作り、集落を営みました。やがてコミュニティが大きくなり、長年の歴史のなかで国家という大きな社会単位を生み出してきました。 もともと人間は集団生活を営む生き物です。単独で生きるようにはできていません。孤独を感じ、誰かと一緒にいたいと仲間を求めます。恋人と出会って家族を作ります。他の人との情緒的な関わりや、自分が受け入れられどこかに所属しているという感覚は、心理的な足固めとなり、夢の実現への勇気と行動力の源になります。 ユーサイキアのブレスワーク、ボディワークは、人との絆と共感を実感し、社会に必要とされ、果たせる役割があることを再確認できるモチベーション向上に効果的なプログラムです。 【承認欲求(尊厳欲求】】 4番目は、他者から認められたい、尊敬されたいという「承認欲求(尊厳欲求)」です。属しているグループ(会社、学校、サークル)のなかで認められたい、尊敬されたいという思いは、人としてごく自然なこと。この欲求は、人を前進させ、成長していくモチベーションとなるのです。 安全で豊かな今の日本でモチベーションを上げるのは、お金など物質的なものより、精神的な充足感にあるでしょう。社会的に評価されたい、仲間の中で特別視されたい、認められたいという思いです。 ユーサイキア研究所のワークショップは、物質的所有欲を超えて、精神的な欲求に応える価値あるプログラムです。 【自己実現の欲求】 ピラミッドの最上位に位置づけられている自己実現の欲求。 自己実現とは、自分の目的、理想の実現に向けて、もてる才能、能力、可能性をかけて最大限に努力すること。自己の人格を発展させ、潜在している能力を発見あるいは発展させること。成熟した人間像を目指すことを意味します。 ユーサイキア・ブレスワークのピークエクスピリエンス(ゾーン、フローとも呼ばれる)体験で得られる成果は、まさにこの自己実現のカテゴリーに属するものが多く見られます。自己実現した人の特性である、新しいアイディアに開けて創造性に富み、健康に気を配り、自発的、謙虚、善悪を見分ける認識力、勇気と決断力など。こうした生活態度や才能、能力が自然によみがえってきます。アーティストが自己の才能を開花させたいと努力する姿勢や、社会的に成功した企業家が、さらに上をめざして自分の限界に挑戦しようと考える欲求もこれにあたるでしょう。 ユーサイキア研究所のワーク・メソッドは、こうした人間本来の欲求を支える行動力と気力、体力を養います。いつまでも活き活きと元気に健康を守り、豊かな生活をおくりたい方のための人生のセラピーです。 マズローは、より高いレベルの欲求へと向かうのに、各段階の欲求が完全に満たされてからというわけではないとしています。現代の豊かな社会では、最上位の欲求は、特別な境遇の人に生じる欲求ではなく、誰にでも生じてくるものになりました。実際、ワーク現場でも、階段を一段一段のぼるというより、各レベルの欲求を同時にすべて満たしていくケースが多々生じています。 次回は、マズローが晩年になって見出したピラミッドモデルを超える 6番目の欲求レベルについて紹介したいと思います。 ヒューマンポテンシャル・ムーブメント(人間性回復運動)は、マズローの自己実現理論の影響を受けて、1960年代のアメリカ西海岸で盛んになりました。この時代、日本は経済成長の途上にあり、今のようなインターネットやSNSもなく、情報や人の行き来は制限されていました。そのため、政治・経済のような重要性が認められない海外事情は伝え聞く情報を推察と想像で補いながら貼り合わるしかありませんでした。
残念なことに日本では、ヒューマンポテンシャル・ムーブメント(人間性回復運動)が、同時代に起きたヒッピー・ムーヴメントやドラッグ・カルチャー、自己啓発セミナー、マルチ商法と混同されています。伝聞を切り貼りするしかなかった時代背景からすれば無理もないことです。しかしながら、人間性回復運動の真実の姿を識るためには、まずドラッグ・カルチャーや自己啓発セミナー、マルチ商法と全く無縁であることを語らなくてはなりません。 これらの社会現象が20世紀後半のアメリカ西海岸という同時代の同じ地域で近接遭遇していたことは事実です。しかし、筆者がしばしば長期滞在していたエサレン研究者をはじめとする人間性教育の研究施設で、自己啓発セミナーやマルチ商法に関わる人を見ることは一度としてありませんでした。人間性教育に関心を持つ人は自己啓発セミナーに関心がなく、その逆も然りです。両者は同じ時代に同じ地域にいながら、完全にすれ違っていました。 自己啓発セミナーやマルチ商法は、ビジネストークに、当時隆盛していたヒューマンポテンシャル・ムーブメントの文言を巧みに織り込みました。しかし、そのコンセプトに関心をもつことはありませんでした。売れれば理解する必要はありません。これは現代の広告代理店が、扱い商品の販売戦略に、流行語や流行しているコンセプトを使って消費者にピーアールすることと同様です。 また、マズローはヒッピーやドラッグ・カルチャーに批判的で、共感することはありませんでした。筆者はマズロー博士と親交があった人たちから、生前の博士の個人的エピソードを聞いていますが、そこから受けた印象では博士が当時のドラッグ・カルチャーと無縁であったことは明らかです。 人間性心理学は社会の混迷と混乱に秩序を与え、第二次世界大戦後の世界に平和と創造性をもたらす道標となった実践的学問です。人間と社会が秘める可能性への挑戦でもあります。自己啓発セミナーや、ドラッグ・カルチャー、ヒッピー・ムーブメントなどが目指す方向とは異なる生きかたを提案するものであるとご理解いただきたいと思います. |
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