ヒューマンポテンシャル・ムーブメント(人間性回復運動)は、マズローの自己実現理論の影響を受けて、1960年代のアメリカ西海岸で盛んになりました。この時代、日本は経済成長の途上にあり、今のようなインターネットやSNSもなく、情報や人の行き来は制限されていました。そのため、政治・経済のような重要性が認められない海外事情は伝え聞く情報を推察と想像で補いながら貼り合わるしかありませんでした。
残念なことに日本では、ヒューマンポテンシャル・ムーブメント(人間性回復運動)が、同時代に起きたヒッピー・ムーヴメントやドラッグ・カルチャー、自己啓発セミナー、マルチ商法と混同されています。伝聞を切り貼りするしかなかった時代背景からすれば無理もないことです。しかしながら、人間性回復運動の真実の姿を識るためには、まずドラッグ・カルチャーや自己啓発セミナー、マルチ商法と全く無縁であることを語らなくてはなりません。 これらの社会現象が20世紀後半のアメリカ西海岸という同時代の同じ地域で近接遭遇していたことは事実です。しかし、筆者がしばしば長期滞在していたエサレン研究者をはじめとする人間性教育の研究施設で、自己啓発セミナーやマルチ商法に関わる人を見ることは一度としてありませんでした。人間性教育に関心を持つ人は自己啓発セミナーに関心がなく、その逆も然りです。両者は同じ時代に同じ地域にいながら、完全にすれ違っていました。 自己啓発セミナーやマルチ商法は、ビジネストークに、当時隆盛していたヒューマンポテンシャル・ムーブメントの文言を巧みに織り込みました。しかし、そのコンセプトに関心をもつことはありませんでした。売れれば理解する必要はありません。これは現代の広告代理店が、扱い商品の販売戦略に、流行語や流行しているコンセプトを使って消費者にピーアールすることと同様です。 また、マズローはヒッピーやドラッグ・カルチャーに批判的で、共感することはありませんでした。筆者はマズロー博士と親交があった人たちから、生前の博士の個人的エピソードを聞いていますが、そこから受けた印象では博士が当時のドラッグ・カルチャーと無縁であったことは明らかです。 人間性心理学は社会の混迷と混乱に秩序を与え、第二次世界大戦後の世界に平和と創造性をもたらす道標となった実践的学問です。人間と社会が秘める可能性への挑戦でもあります。自己啓発セミナーや、ドラッグ・カルチャー、ヒッピー・ムーブメントなどが目指す方向とは異なる生きかたを提案するものであるとご理解いただきたいと思います.
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